鬼上司は秘密の恋人!?
「石月さん、ご迷惑ばかりかけて、すいません」
鼻声でそう言うと、今度はおでこを小突かれた。
「お前はもう少し、人に甘えろ」
「でも……」
「俺は、お前らを見てると救われる」
「え……?」
優しい口調に驚いて視線を上げると、ふんと鼻で笑われた。
「五歳児がこんなに騒がしくて、手がかかるとは思わなかった。ちっともじっとしてなくて、少しも目が離せなくて。子供なんて、放って置いても勝手に育つと思ってたけど、ぜんぜん違うんだな」
その言葉に、申し訳なくなる。
今までひとりで気ままに自由に暮らしていた石月さんにとっては、突然子供と一緒に暮らすなんて、迷惑でしかなかっただろう。
「自分が子供のときも、そうだったんだろうなと思うと、今までろくに感謝なんかしなかった母親に頭を下げたくなる」
私が驚いて目を合わせると、石月さんは小さく首を傾げて薄く笑った。
「仕事ばかりしてた母だけど、幼稚園や学校の行事には必ず顔を出してくれたし、なにより俺の前で具合を悪そうにしていたことなんて、一度もなかった。あれだけ仕事をして子供をひとりで育てて、心細くなかったはずなんてないし、疲れてないはずがないのに、それでも俺の前ではいつも背筋を伸ばしてた。母親として、必死に頑張ってくれていたんだろうなって、今になってようやく気づけた」
ぽかんとして瞬きをすると、石月さんが私を睨んだ。
「そんなことに今更気づいたのかって、バカにしてるだろ」
「いえ、そういうわけじゃ……」
慌てて首を横に振ると、石月さんは吹き出すように笑った。ぽんぽんと私の頭を叩くように撫でる。