コミュ障なんです!

永屋さんの部屋は三階の一番奥の部屋らしい。そこで立ち止まると、私の腕を離して自分の服を触り始めた。
スーツのポケットから鍵を探しているようだ。


「三階って見晴らしいいですか?」

「うーん。周りビルばかりだからね。思ったほどでもないなぁ」


そうか。じゃあ階段多く上る分、面倒なのかな。


「はい、どうぞ」


そんなことを考えているうちに扉は開かれ、中に入るように言ってくれたけど、私の足は玄関スペースから動けない。
だって、結構濡れちゃったもん。ここで立っているだけでも水たまりができちゃうし。


「風邪ひくから入って。先にシャワー使って」

「いやいや、永屋さんこそお先にどうぞ」

「家主の俺がいいって言ってるんだから早く入れって」

「酔っぱらい放って入れませんよ」


一応遠慮くらいできるんですよ。大人なんですから。

こっちのこと思うならさっさと入ってくれればいいのに。
頑なに言い返していたら永屋さんは、すうと一度息を吸ったかと思うとにっこり笑った。


「だいぶ冷めたから平気だって。いいから言うこと聞きなよ。でないと」


あ、ちょっと黒い笑み。
この笑いの時は実は怒ってるときだ。

空気を察知した私は、怖いので彼の目を見ないようにカバンを盾にする。


「分かりました。シャワーお借りします」


あ、でも替えの下着ないわ。
どうしよう。


「なに?」

「いえ」


でもここで、またごねると怒るよな、絶対。今度は笑いもしないで怒りだすだろう。相当怖い。
私怒られる筋合いないのに、理不尽。

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