彼の青色
「そのペンダント、かわいいね」

女友達がそう言って指差した私の胸元には、ムーンストーンが揺れている。
乳白色のパワーストーンでまるで本当に遠い月に落ちているかのような色をしている。
親指のさきほどの大きさで、ゆるやかにしずく型になったそれは、遠距離を始めた時に彼からもらったものだ。

「よく触ってるよね。お守りかなにかなの?」

「まぁ、そんな感じ」

あいまいに笑いながら、いつものように、右のてのひらに載せて握る。
こうすると、石のひんやりとしていてなめらかな感触が心地よくて、気持ちが落ち着くのだ。

女友達がアルバイトをしているCDショップには、今日もお客さんがいない。
私以外は、ってことだけど。
私がお客さんであるかどうかは別にして。
小学校からの付き合いである彼女のアルバイト先は、大学をさぼった私の唯一の居場所だ。

「今日も大学さぼったの?」

カウンター越しの女友達は、えんじ色のエプロンをしている。
胸元にプリントされた『新光堂』の白い文字をぼんやりみつめて「まぁね」と答えた。

「私、大学行ってないからよくわかんないけど、大学生ってずいぶん暇なんだね」

「まぁね」

カウンターに寄りかかり、店内を見回す。

「CDショップの店員さんも暇そう」

背中のほうで、女友達がおかしそうに笑いながら、「暇そうに見えるかもしれないけど」と、反論する。

「これでも、結構忙しいのよ」

「どこが」

振り返ると、女友達は薄いピンクに色づいた自分の爪を天井の蛍光灯にかざすように見ながら、「一度、アルバイトでもすれば分かるんじゃない?」と言った。

「私、どんなアルバイトならできると思う?」

ちょうど、見計らったかのように、店内の固定電話の古びた呼び出し音が鳴り、女友達は「知るか」と簡素に答えると、受話器を上げた。

「はい、新光堂です」

女友達のよそいきの声を聞きながら、CDショップを出ると、雨はすっかり上がっていた。
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