透き通る季節の中で
 年明けの一月七日の夜、春子さんから電話で連絡があった。

 メンタルクリニックの開業にこぎつけたという。

 営業開始日は、約一ヶ月後の二月四日、月曜日。

 開業の準備に追われているという。

 おめでとうございます。精一杯の明るい声で祝福して、私の悩みを春子さんに打ち明けてみた。

 親身に私の悩みを聞いてくれている。

 カウンセラーとしての立場ではなく、一人の人間として、一人の女性として。

 私のように、新たな恋をしてもいいのか、悩んでいる人が多いという。

 死別経験者ならではの悩み。

 失恋とは全く違う悩み。



 咲樹ちゃんは、運が悪いだけだと思うよ。気にしなくても大丈夫だから。

 とても真剣な声で言ってくれた。

 春子さんが言ってくれたことを信じたい。

 信じたいけど、不安感は拭えない。

 二度あることは三度ある。

 ことわざのとおりになってしまう可能性は否めない。

 




 私にとっては切実な悩み。今後の人生が掛かっている。

 ネットで霊媒師を探してみた。

 胡散臭い霊媒師ばかり。あとで高額な料金を請求されそうで怖い。

 現実と映画の世界は違う。

 残念ながら、ヒアアフターのマットデイモンのような霊媒師を見つけることはできなかった。

 それでも、藁にすがりたい。



 一人で悩んでいるだけでは何も解決しない。

 思い切って、信頼できる会社の上司に相談してみた。

 霊媒師に詳しい知り合いがいるという。

 上司が、その人の携帯番号を教えてくれた。

 さっそく電話を掛けてみた。

 私の事情を説明した。

 女性の霊媒師を紹介してくれた。

 名前は、円城道子さん。年齢は、七十八歳。

 その道、四十八年の大ベテランだという。

 無償で見てくれるという話。

 謝礼は、一切受け取らないという。

 無償なら、信用できるかもしれない。私はそう考えた。

 円城さんの自宅の電話番号を教えてもらった。

 上司が見ている前で、円城さんに電話を掛けてみた。

 今日、来てもいいと言ってくれて、自宅の住所を教えてくれた。

 会社から距離があるので、早退させてもらった。
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