透き通る季節の中で
 年齢的にも肉体的にも、ピークを過ぎてしまったのか、三十二歳を過ぎた辺りから、二時間台のタイムで走れなくなってしまった。

 三時間十一分

 三時間十四分

 三時間二十三分

 どんなに頑張って走っても、走る度にタイムが落ちていく。

 美咲もタイムが伸び悩んでいて、二時間四十分前後のタイムで完走している。

 ママさんランナーになった友紀とまっちゃんは、三時間半前後のタイム。

 タイムを伸ばし続けているのは、和也さんだけ。

 そろそろ潮時かな。美咲が寂しげな声でつぶやいた。

 なんだか終わってしまったようで、私も寂しく思った。



 食事会の席で話し合い、原点に戻り、練習会もマラソン大会も続けていこうということになった。

 タイムは気にせず、みんなで楽しく走る。

 それだけでいいじゃないか。

 人生は、同じことの繰り返しだから。

 


 



 一人でも、人生を楽しむためには、新たな趣味が必要。

 走ること以外に熱中できることが必要。

 そう考えて、デジタル一眼レフカメラを買ってみた。

 久しぶりの大きな買い物。しばらくは、節約生活。

 写真は、いつでもどこでも撮れる。

 歳を取ってからでも続けられる。

 我ながら、良い趣味だと思う。



 さっそく春子さんに写真の撮り方を教わった。

 何も考えないで、撮りたいものにピントを合わせて撮ればいいのよ。と言われた。

 何を撮っていいのかわからず、春子さんの写真を撮ってみた。

 日菜子ちゃんと寛太くんの写真も。

 私たちの写真はいいから、他のものを撮ってみて。街中にも被写体は溢れているのよ。

 春子さんに促されて、私は外に飛び出した。

 犬や猫などの動物。

 ビルや高架や橋や鉄塔などの人工建造物。

 車やオートバイなどの乗り物。

 草花や街路樹などの自然。

 そして、空。

 春子さんが言っていたとおり、街中にも被写体は溢れている。

 のんびりと散歩を楽しみながら、撮りたいものを撮ってみた。

 さすがに、風は撮ることができない。

 カメラを片手に散歩を楽しむ。という新たな趣味が増えたことで、気持ちにゆとりが出てきた。







 土日を利用したプチ旅行。

 降りたことのない駅で降りて、カメラを片手にぶらぶら歩く。

 撮りたいものを撮って、歩き疲れたら公園で休憩。

 初めてのレストランでの食事。

 オシャレなカフェでお茶を楽しむ。

 古着屋さんでお買い物。

 眩しい青空を見上げながら、川沿いの道を歩く。

 山道を散策。

 神社やお寺巡り。

 夜景スポット巡り。

 カップルとすれ違っても気にしない。

 私には、写真という趣味があるから大丈夫。
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