銀木犀
第5章 スーツ遊び

(そうだったなあ……銀木犀……あれが最初だったなあ……)

僕はあの時と同じ校庭の掛け声に耳を澄ませ、風になびくカーテンを見ていた。


中庭に長く伸びた影は、はしゃぎながら歩く女の子達。


ところどころ禿げかけた壁に塗り重ねられた塗料や、張り替えられた見知らぬ床の素材がなければ、僕はあの時にいるという錯覚に陥っていたかもしれない。


僕は腕時計に目をやる。


約束の時間までは、まだ十分にある。


約束の時間。


約束……。
< 16 / 52 >

この作品をシェア

pagetop