銀木犀

「覚えてますか？

最初に教室で交わした会話。

銀木犀の話したよね？

話したというにはあまりにも短かったけど。



覚えてますか？

学校帰りに二人乗りを見つかって公園に逃げたこと。

遊具の中で二人で身を縮めて息を殺してたよね。

すごくいろんな意味でドキドキした。



覚えてますか？

二人でお祭りに行ったこと。

なかなか浴衣を見てくれなくて「パンツ透けてる」とアナタが言ったこと。

見てないくせに他に言うことなかったの？



ごめんね。

素直じゃなくて。

女の子らしくなくて。

スカートはかなくて。



ごめんね。

ヒールはいてきちゃったこと。

飲み会に迎えにこらせたこと。

Ｗデートに無理やり引っ張って行っちゃったこと。



ごめんね。

国語の課題を忘れたとき、わざと一緒に怒られてくれたこと。

ケンカして謝らなかったこと。

好きだって言えなかったこと。



覚えていてね。

私と過ごした日々のこと。

私という存在。

私と向き合ったアナタ自身。



覚えていてね。

お母さんを騙したこと。

遊具の中で交わした会話。

初めて教室で交わした会話。



そして、銀木犀が好きだったこと。」