恋愛指南は乙女ゲームで
 現実世界では今野に呆れられ、ゲームの中では政子が一大決心をしていた。

<もうすぐ田村くんは海外支社に行っちゃうし、何とか気持ちだけでも伝えよう。そう決心した矢先、マンションの廊下で田村くんと会う>

 そろそろこのゲームも終盤だ。
 どうやら12話で終わりらしい。すでに11話だもんな。

 あれから納得いかないながらもせっせと貢物もしたし、今野言うところのラブ度も48000まで上がった。
 ギリでクリアかよ、と今野は言うが、クリアできればいいだろ、こんなもん。
 多分凄いラブ度でクリアしたところで、政子が一気に敵を殲滅できるようになるわけでもなし。

 しかしまぁ、政子もこんな無愛想な奴に、よくもここまで尽くせるもんだ。

<田村くんの部屋の前には、紐がかけられた段ボールの束があった。
『あ……。もう荷造り始めるんだ』
 意気込んでみたものの、やはりいなくなる、という現実を見せつけられると心がひよる。
『とりあえず、部屋は空けないといけないし。持って行かないものは、実家に送ることにした』
『そ、そっか。大変だね』>

 うーん、何か全体的に、田村は現実的なんだよなぁ。

<何となく私は廊下に立ったまま、話し話を続けた。こういうことも、今後なくなるんだ、と思うと、この場を立ち去りがたい>

 ……手伝えよ。
 突っ立ってるだけよりも、手伝ったほうが話も弾むってなもんだ。
 政子、気ぃ利かねぇな。

<不意に、田村くんが手を止めて私を見た。
『手伝って』
『え?』
『暇なんだろ?』>

 最後の最後に呆れられたか、政子。
 言われる前に動かないと、武家の嫁は務まらんぞ。

 しかし田村も、人にものを頼むのに『暇だろ』はないだろう。
 まぁ政子は暇だろうが。
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