ガラクタ♂♀狂想曲
くせモノ




たしか携帯を盗られたときデンちゃんのアドレスを表示していた。

慌てて発信履歴を確認すれば、やっぱりデンちゃんが一番上に表示されている。通話時間は4分をかなり過ぎていたから約5分ものあいだ通話中だった。いつから、通話中だったのか。


「どうされました?」


オーナーの声にびくっと体が反応してしまい、勢いよく息を吸い込み咳き込んでしまった。


「大丈夫ですか?」

「ええ、はい大丈夫です。すみません」


なに焦ってるんだろう。そんなに大したこと話していなかった——、はずなのに。だけど、どうして私、なんで切っちゃったんだろう。

ふと、私たちがファミレスで鉢合わせしたとき、私から目を逸らしたデンちゃんを思い出す。あのときのデンちゃんも、こんな気持ちだったのだろうか。


「行きましょうか」

「あ、はい」


駅へ向かう私たち。さすがに駅前まで来るとかなり明るく人影もたくさん見えた。

時刻表を確認すれば、あと5分ほどで電車がくる。遅れてはならないと慌てて財布を取り出し切符を購入。


「お気をつけて」

「ありがとうございましたっ」


そしてバタバタと向かったわりに電車が到着する気配はないホーム。時間が止まってしまったようにも見える。

列車が入ってくるであろうほうへ顔を向ければ、冷たい風が頬を撫でていく。

耳を澄ませば、遠くのほうでカタタンとレールの微かな響きが聞こえた。この寒空で5分は結構長い、と思う。


「……寒い」


それにしてもデンちゃんは、どうして電話を折り返してこないのか。やはり自分からかけたほうがいいのか。

待ち望んでいた電車がホームへ滑り込んできても考えが纏まらず、幾分眩しい車内へ乗り込んだ。

だけど落ち着いてシートに座っていることが出来ず。携帯に何度も文字を打ち込んでは削除を繰り返し、結局"もうすぐS駅に着く"とだけ送信。すぐ既読や返信がつき、ようやく胸を撫で下ろした。


"私は一番前に乗ってるよ"

《わかった》

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