例えば危ない橋だったとして

「いつもありがとう。黒澤くんのおかげだよ」

返事に迷ったが、感謝を伝えた。
すると、席を立っていた係長が、黒澤くんの隣に戻って来た。

「榊さん、黒澤くんの指導はどうだ」

係長が話題に入って来た。
前の席から真っ直ぐに投げ掛けられた質問に、心臓が鳴る。
考えながら、話し始めた。

「……すごく丁寧に教えて貰ってます。黒澤くんのおかげで、やり甲斐も感じられるようになって……この部署に異動して来て良かったと思いました。この仕事をよく勉強してることも、伝わって来ます」

「ベタ褒めだなぁ~」

係長がわたしと黒澤くんを交互に眺めながら、白い歯を見せた。
係長はまだ30代だけれど、笑うと目尻に皺が寄ってダンディーだと思った。


黒澤くんに視線を移すと、やや照れて顔を赤くしているように見て取れた。

「そんな褒めても、何も出ないよ」

冗談っぽく唇を尖らせる。
その表情に、心なしか以前のような柔らかな空気が戻った感触がした。

「榊が意欲的に取り組んでるからだよ。ノートも相当作り込んでるし。営業にも物怖じせずに、言うべきことは言ってる」
「……そうかな。この間も助けて貰っちゃったし……」

「ああいう輩は別。営業は客対応して確認取るのが仕事なんだから、あれは怠慢だよ」

黒澤くんが穏やかに微笑んだ。

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