マザコン彼氏の事情
8
「くるみ、夕べはありがとう」

 オフィスに入ると、龍くんが傍に来た。
 まだ、何だかぎこちない。
 早く気持ちを切り替えて、普通に接したい。
 それが出来ないなら、やっぱりわたしはここを去るべきよね?

「お母さんは?」
「今朝はしっかり食事も摂れたし、もう大丈夫だと思う」
「良かった」

 会話はそれだけだった。
 わたし、何を期待してるんだろう。
 これで十分。
 お母さんが回復に向かっていると教えてもらっただけで十分。

 夕方になった。
 わたしが退社するまでに、龍くんは戻って来なかった。
 遅い時間の商談が多いので、龍くんに限らず戻って来ない営業の方が多い。
 だからこれが当たり前。
 別に、わたしを避けて帰って来ない訳じゃない。

 さてと。
 そろそろ帰ろう。

「それじゃ、真保ちゃん、先に帰るね」
「お疲れさまでした。わたし、今日は栗原くんと天翔に行く約束してるから、帰って来るまで待ってなきゃ」
「そう。それじゃまた明日」

 会社を出て駅に向かう。
 今晩は、何食べよう?
 冷蔵庫に何が残っていたか思い出せない。
 まっ、いいか。
 コンビニにでも寄って帰ろう。

 夜になっても蒸し暑さは続いていた。
 この暑さ、まだ一ヶ月以上は続くかな?
 暑い時は早く冬になって欲しいと願い、冬には早く春が来ないかと願う。
 これって、四季がある国だから思う事なんだよね。
 この暑さ寒さに耐えたら、絶対過ごしやすい季節がやって来るってわかっているから。
 一年中暑い国、一年中寒い国だったら、その気候に慣れて、耐え忍ぶ事も無いんだろうな。

 最寄の駅に着いて、帰る途中のコンビニでおにぎりを買う。
 カップ麺だったら何かストックがあるはず。
 今晩はそれで済ませよう。

 家に戻り、お湯を沸かしている時だった。

 ピンポーン。
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