【完】キミは夢想花*


椿は優しく微笑んだ。



私はそんな彼を見ることしか出来ない。



「死ぬことを拒むってことは、この世に未練があるってことだ」



「未練...?」



「それは蓮にしか分からないよ」



「私にしか...分からない?」



この世は嫌なことだらけで。

自分の居場所なんてどこにもなくて。

ただ息を潜めるかのように生きていて。



それなのに。

私はこの世に未練があるの?



その時、ポツリポツリと雨が降ってきた──



そう言えば夜に雨が降るって、天気予報のお姉さんが言っていたっけ。



「もしも...」



椿が声を発したので空から彼に視線を移せば、彼はなんとなく泣きそうな顔をしていた。



「死にたいって本気で思った時、その時ボクは蓮と一緒に死ぬよ」



「椿...」



そう言うと彼は私に背を向けた。



「どこ行くの??」



彼の背中は丸まっていて、悲しそうに見える。



「...仕事だよ」



彼は一瞬私の方を向くとそう言ってすぐに背中を向けた。

< 8 / 202 >

この作品をシェア

pagetop