とあるレンジャーの休日

「まともに生きてたら、死ぬのが怖いなんて当たり前だ」

 いくら自衛官だからと言って、積極的に命を投げ出す必要なんかない。
 そうしなければ別の命が大量に失われるような局面でもない限り、生きて帰ることが優先される。
 そのために日々修練し、厳しいトレーニングも積んでいるのだ。
 わざわざ負けるために戦うなんて、おかしな話である。

 歩だって死にたくはなかった。
 そして大切な人たちのことも、死なせたくないと思う。
 だからこそ強くあらねばならないし、そのための努力なら、いくらでも出来るだろう。

(なのに、なんで動けないんだ?)

 歩は、静かにため息を吐いた。

 ふと横を見て、紫乃に手を伸ばす。
 彼は、彼女の柔らかく細い髪をそうっと撫でた。

「ん……」

 身じろぎする彼女を見て、歩はゆっくり顔を近づける。
 彼女のやすらかな寝顔を間近で見つめ、その唇に触れようとして、直前で思いとどまった。
 前日、紫乃に『そういうこと、勝手にしちゃダメ!』『寝てる間に何かするのは、ナシだからね』と言われたことを思い出したのだ。

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