とあるレンジャーの休日

 たとえ赤の他人である患者でも、明らかな死に向かう人間を見つめ続けるのはツラいことだ。
 ましてそれが身内とくれば、なおのことで――

 ふいにまた涙で視界が滲む。
 箸を持つ手が止まり、紫乃は次々に溢れ出した涙を拭うこともせずに、声を殺しながら泣き続けた。
 大きな声を出せば、一階の部屋にいる清二郎に聞こえてしまう。

 歩が慌ててリビングからティッシュ箱を持ってきた。
 それを紫乃の目の前に置き、肩を抱いて、背中を優しく撫でてくれる。

「う……っく、うう……」

 歩に出会ってから、自分は泣いてばかりだ。
 その理由は全て、彼以外にあるのだけれど。

 紫乃が泣いている時、彼は決して「泣かないで」とか「元気出して」などと言わない。
 紫乃が好きなだけ泣いて落ち着くまで、ジッと待っていてくれる。
 だから紫乃も歩には素直に甘えることができるのだ。

「歩……」

 紫乃は腕を伸ばし、横に立っていた彼の腰にしがみついた。
 歩はそっと抱きしめ返してきて、紫乃の頭と背中を撫で続ける。

 明日からはもう、泣かなくて済むように――

 紫乃はその晩限りと決め、歩の胸を借りながら、泣きたいだけ存分に泣き続けた。


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