君が涙を忘れる日まで。
彼は幸野貴斗(こうのたかと)。

一応クラスメイトだけど、二年生になってまだ一ヶ月だからか幸野君のことはよく知らないし、お世辞にも仲がいいとは言えない。


同じバスケ部だけど男子と女子では練習も別々だしそこまで交流があるわけでもないから、あくまでただのクラスメイトという関係だ。


そんな幸野君と私、樋口奈々(ひぐちなな)は何故か制服のまま、まだ世間が動き出す前のこの静かな時間に二人で肩を並べて歩いている。


凄く不自然で、でもなんだか新鮮で、こういうのもアリなのかなと思ってしまう。


今この時この瞬間に幸野君が隣にいてくれることで、私の気持は辛うじて冷静に保てているから。

一人じゃなくて良かった。なんて言ったら、幸野君に悪いよね。でも本当にそう思うんだ。


「てゆうか俺たち、同じクラスで同じバスケ部なのにまともに喋ったことないよな」

短い黒髪を指先で触りながら呟く幸野君に、私は軽く頷いた。


「確認だけど、俺のことは知ってるよね?」

「あたり前じゃん」


確かに今まで会話らしい会話はなくて、部活終わりにお疲れ様の挨拶をしたことがあるようなないようなそのくらいの関係だけど、さすがに知らないわけない。


「ならよかった。じゃーまず俺の印象聞かせて」

「は?」

「特に話すこともないし、無言で歩くのはなんか嫌だろ。だから早く」


話すことはない……。確かにそうだけど、この状況で最初にそれを聞いてくる辺り、イメージ通りの人だと思った。


「いつも楽しそうにしてて、明るい人って感じかな?」

「それってだいぶ気を遣って言葉選んだだろ?ハッキリ言っていいよ、うるさいって」

「別にそうは思ってないけど……」


「いいのいいの、よく言われるから。貴斗って小学生の頃からお調子者タイプだったでしょ?って。ついでに能天気でいつもふざけて男子とばっかつるんで、脳内はまだ小学生だってね」


いや、なにもそこまでは思ってないけど。確かにお調子者っていう言葉がピッタリかも。


「ていうかなに納得したような顔してんだよ。ちょっとは否定しろ」


笑いながら肩を軽く叩かれた私は、思わずプッと吹き出した。


ーーーなんだ、私まだ笑えるじゃん。




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