君が涙を忘れる日まで。
いるよ……。部活ばっかりやってるように見えるだろうけど、私だって普通の高校生なんだ。

恋愛だってしたいし、彼氏も欲しい。

相手はこの少女漫画に出てくるS系王子なんかじゃなくて、修司が……。でも……。



「……いないよ。いたら香乃に言うし」


香乃に言わなきゃってずっと思ってたのに、自分でもどうして嘘をついてしまったのか分からないけど口が勝手にそう喋ってしまった。


「そっか……いないんだね」


そう言って香乃は、私の好きな少女漫画の最新刊を手に取った。


二人の間に沈黙が訪れるけれど、こんなのはいつものことで、同じ空間にいてもお互い好きなことをしてる。

気まずいとか気を遣うこともないから、だから香乃と一緒にいるのが楽なんだ。


それなのに……今、凄く息苦しい。



漫画の内容なんか全然頭に入ってこないし、今香乃がなにを思ってるんだろうって、そんなことばかり考えてしまう。


ちゃんと香乃に話して、修司とのことを香乃にもたくさん聞いてもらいたい。

香乃なら応援してくれるから、きっと全力で……。


「あのさ、香乃……」
「ねぇ、奈々……」


ほぼ同時に私達は言葉を発した。いつもなら『双子かよ』とか言って盛り上がっただろうに、今日はお互い譲り合ってしまう。


「なに?」

「奈々からどうぞ」

「いいよ、香乃から言って」


なんだこの感じ、二人の間でこんな気を遣ったやりとりは初めてだ。まるで知り合ったばかりみたい。


「そう?じゃー私から言うね」

香乃は漫画を閉じ、正座をして私の方を向いた。場所はベッドの上だけど。


「あのね、あの……奈々には言わなきゃって思ってて今まで言えなかったんだけどさ」

「うん、なに?」


「私……好きな人がいるんだよね」



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