君が涙を忘れる日まで。
いつもより早く家を出た私は一人で電車に乗り込む。三両目ではなく、四両目に。

万が一修司が早く電車に乗ってしまっても、会わないように。


少し早くしただけなのに、駅から学校までの道のりがまるで違う景色に見えた。

学校に向かって歩く生徒の姿も少なくて、いつも見る顔ぶれはそこにはいない。


教室も同じで、まだ二人しか登校していなかった。

冬休みの間に少しは落ち着くんじゃないかと期待していたけど、修司の席の横を通るだけで感じる胸の痛み。


こんなんで今まで通りになんて出来るはずない。


しばらくすると徐々にクラスメイトが登校してきて騒がしくなる教室。


「おはよー」


修司の声を聞くだけで、体育館で見たあの日の光景が甦ってくる。

話しかけられないことを祈って、私は背中を小さく丸めた。



「奈々、おはよ」

「……おはよ」


「香乃に聞いたよ、朝練してるんだろ?」

「うん。まぁね」


私の気持を知らないんだから、こうなるに決まってるよね。

クラスメイトの私と話をすることは、修司にとってなんの変哲もないいつもの日常なんだから。



「あのさ、奈々に話が……」

「ごめん!ちょっと早起きし過ぎて眠いんだよね」


私は修司の言葉を遮って、机に顔を伏せた。


その先は、聞きたくないから。



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