君が涙を忘れる日まで。
駅に近づくにつれて人の数も多くなっていく光景も、さすがに見慣れた。


高校生になって初めて電車通学というのを経験し、二週間が経過した。

満員電車とまではいかなくても人が多い電車の中は本当に疲れる。

この時間でさえそう思うんだから、毎朝満員電車に何年何十年と揺られている働く大人のことを考えると、毎日ご苦労様と頭を下げたくなる。


入学からたった三日で自転車通学に変えようかと本気で迷ったけど、それはそれで四十分くらいかかるし、しかも坂道が多い。


部活の筋トレの一環だと思えばどうだろうと香乃に相談したけど、『私は朝からそんなに漕げないから無理』と大反対された。


だからしかたなく電車通学を続けていた。

そのはずだったのに。


ハッキリとは覚えていないけど、電車も悪くないかもと思い始めたのは、確か入学して一週間が過ぎた頃からだった。


毎朝決まった電車には同じ学校の生徒だけでなく、違う制服を着た学生も乗っている。

制服は様々でも、顔ぶれはほぼ一緒。


何も考えずに香乃とお喋りをしながら乗っていたその中で、私は〝彼〟を見つけた。


同じクラスの園田修司(そのだしゅうじ)。


いつも私達が乗る電車の同じ車両に、園田君は乗っている。


三両目に乗ると階段に一番近い場所で降りられるから私達は必ずそこに乗りこむけど、園田君もきっと同じ考えなんだろう。


髪の毛は日差しのせいで、教室にいる時よりも少しだけ明るい茶色に見える。

男子なのにハッキリした二重で、横顔が綺麗に見えるのも、きっと日差しのせい。


なんとなく気になってしまうのは、クラスメイトが毎朝同じ電車にいるからなんだ。



ただそれだけだと思っていたのに……、園田君がふと顔を上げた時、一瞬目が合った気がして私は咄嗟に俯いた。


心臓が勝手にキュッとなって、ソワソワして、破裂しそうなほどドキドキと揺れている。


うるさい。静まれ、私の心臓!

吊革を掴んでいない左手で、強くスカートを握りしめた。



目が合ったのは、気づかないうちに私の視線がずっと……彼をとらえていたから……。



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