世界が終わる音を聴いた

夜が明ければ朝は来る。
明けない夜はない、と人は言う。
出口の無いトンネルはない、と。
だから辛さも苦しさも、永遠には続かないと、それは励ましの言葉なのだろう。
だけど私は思う。
辛さや苦しさは、時間が和らげることは確かにあるけれど、決して無くなるものではない、と。
辛い気持ち、苦しい気持ちは、喜びや楽しさと同じように、その瞬間に立ち返ったときに蘇る。
和らいだとしても、細く小さく、心の中にいつもある。
私はそれを経験で知っている。




「また、戻るのか。以前のお前のように」

突然の声にも、驚きは一瞬。
ハデスの存在を私が受け入れたから。

「戻ってるのかな?」
「違うのか」
「……以前の自分に、と言うとちょっと違う気がする」
「何故?」
「だって、時間は流れているもの」
「そうか」
「そうよ。同じようでいて、多分、似ているだけ」

まるで螺旋階段のように。
同じところを行ったり来たりしているようでいて、少し違う景色を見ているはず。

「明けない夜はない。出口の無いトンネルはない。同じことはずっとは続かないけれど、昨日と今日は繋がっているし、道はずっと繋がっているのよ」
「例えが難しい」
「そう?……パッタリと無くならないけれど、小さくなって共にあるということよ。その経験があるから、違う景色を見れるのよ」
「お前が見る“以前とは違う景色”とは何だ?」
「……少なくとも、だから歌をやめようとは思わないわね」
「上出来だ」

ハデスはそれで満足したのか、小さな笑い声と共にどこかへ消えた。



< 65 / 149 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop