世界が終わる音を聴いた

努めて普通に夜ご飯を終えた私は、自室に戻り散らばったままの譜面やCDを片付けた。
猫のぬいぐるみは、箱に戻そうかと思ったけれど、やめた。
たくさんの家族の形がある。
恋人の形がある。
人の数があるほど、そこにまつわる人間関係やコミュニティは確立される。
だから、必ずしも良好な関係で居られることができないかもしれない。
例えば、家族仲が良くなかったり、別れかけの恋人関係だったり。
職場の、学校の、それ以外の人間関係……。
別の人間だから、結局はどう思われてるのかなんてわかりっこないと思ってた。
けれど私、今なら家族に愛されてるって、胸を張って言える。
だって私、同じように両親のこと、ヒナちゃんのこと、愛しいと思うから。



私は机に座って、何も書かれていないストックしてあったまっさらなノートを取り出した。
表紙に、油性マジックで“ending note”と記す。
こんなのがあったら、もしかして自殺とでも思われちゃうかな?と、苦笑した。
でも大丈夫。
きっとそんなことするはずないって、わかっててくれると思うから。
ひとつ深呼吸をして、私はノートを開いた。
そうしてそこに記入していく。
通帳だとか、暗証番号だとか、本人が急にいなくなってしまうと困ること。
ある程度を書いたら、新しいページの1枚ずつに大切な人へのメッセージを書き記す。
両親へ、友人へ……。
書くのはたくさんじゃなくて、ほんの少しだけれど、ありったけの想いを乗せる。

“あなたに出逢えて、幸せです”と。

全て書き終えたら、そのノートを、机の引き出しに仕舞った。
私が居なくなったら、きっとこの机からいろんなものを探すだろうから。
その様子を、小さなぬいぐるみの猫だけが見ていた。


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