忘れたはずの恋
「この日からテストなんです。
班長とも話し合ったんですが、どうしても7月に年休を10日くらい使いそうで…」

少し困ったような声が聞こえる。

…テスト?

「う〜ん、そうですねえ…。
じゃあ日曜、出勤してみてはどうですか?
そうすれば平日は休めます。
まだまだ走られる範囲が限られているので不安だと思いますが君のような物覚えの早い子なら感覚さえ掴んだら大丈夫と思います。
一度、僕から三木さんには話をしてみますね」

「ありがとうございます!」

嬉しそうな藤野君の声が聞こえる。

「いえいえ。
少しでも休暇は残さないとね」

吉田総括の優しい声が響いた。

「あ、そうだ、吉永さん」

可愛らしい声が私の名前を呼ぶので一瞬、ドキッとして固まってしまった。
ゆっくりと後ろを振り返る。

「先日、少しレースの話をしたと思うんですけど」

ええ、それはお断りしようかと。
何といっても…邪魔くさい。

「僕、夏に開催される鈴鹿8耐に出るんです。
大きい大会なので良かったら是非」

藤野君のその甘い笑顔には惑わされないわよ!
はあ、まあ、みたいな曖昧な返事をしているのに。

「ええっ!吉永さん、興味あるんですか?」

吉田総括が目を輝かせた。

「えっ…あ、えっと」

「集配で今、興味のある人に何人か声を掛けているんです。
一緒に応援に行きません?」

総括~!!
そんな笑顔で言われたら。
断れないじゃないですか!!!!!

「はい…いつでしたっけ?」

私もどこまでお人よしなんだろう…。

「7月の最終日曜日です」

藤野君が教えてくれた。



残念ながら、何も予定は入っていなかった。
< 11 / 96 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop