忘れたはずの恋
「隣、良いですか?」

目が半開き状態の大東さんがお昼、食堂で私の隣にドカッ、と座った。

怒りのオーラが半端ない。

「…朝、近藤さんと歩いていましたよね?」

私は内心、ため息をついて箸を止めた。

「…藤野君も一緒にね」

途中でいなくなったけどね。

「でも私が見た時は二人で、でしたけど」

…本当に面倒くさい。

「藤野君は急いでたのかどうかはわからないけれど、途中で自転車に乗って行ってしまったから」

私は行ってほしくなかったけれど。
近藤さんと2人だけにされても、困る。

「なんだ、そうだったんですね。
吉永さんに裏切られたと思いました」

私は完全に箸を置く。

「…私、面倒な恋愛は大嫌いなの。
近藤さんとは、絶対にないから」

お弁当箱を片付けてさっさと席を立った。

あー…。
半分も食べてない、今日。



10歳年下、あり得ないわ。
本当に。
周りの偏見も酷いし。

…でも。
吉田総括は、それを全く感じさせない。
総括が落ち着いているからかもしれないけれど。
周りから反対とかなかったのかな。

…って、なんでそんなことを考えているの、私!!

その瞬間、藤野君の笑顔が脳裏に浮かんでいた。

…藤野君なんて、一回り!!
12歳年下なんだから絶対にあり得ないわー!!

うん、絶対に、あり得ないんだから。



「お疲れ様です」

節電のために電気使用を極端に減らしていて、そんな薄暗い廊下ですれ違ったのは藤野君。
もう、午前の配達から帰ってきたんだ。

「お疲れ様」

薄暗い場所で一瞬だけ見えた藤野君の微笑。

…うん、絶対に、あってはいけない。

私が悪く言われるのは仕方がないけれど、彼が言われるのは、ダメ。

その笑顔を曇らせてはいけない。

だから、恋をしてはいけない相手なのよ。



わかった?私???
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