キミの笑顔が見たいだけ。


「もうちょいこっち」


「あ……うん」


半歩くらい近寄ると肩と肩が軽く触れた。


ーードキン


チラッと見上げた整った横顔が徐々に赤くなっていく。


思わずじっと見つめていると、そのまま目が合ってしまった。


それだけで、こんなにも胸が締め付けられる。


矢沢君はコホンと咳払いをひとつして、プイとあたしから目をそらした。


「ほら……早くレンズ見ろよ」


「ご、ごめん」


ちょうどいい具合いに、スマホの画面の中に収まったあたしと矢沢君。


優しくはにかむ矢沢君を見て、あたしも慌てて笑顔を作った。


わー、引きつってないかな。


恥ずかしい。


「撮るぞ」


「う、うん」


ーーカシャ


「撮れた?」


「おう」


「見せて見せて」


「ん」


スッと差し出されたスマホの画面の中に、緊張気味に笑うあたしと、優しくはにかむ矢沢君が写っていた。


こんな矢沢君の顔はなかなか見れないから、かなりレアだ。


しかも、王子様の衣装でのツーショットなんて嬉しすぎる。


お姫様の衣装はピンクのフリル系で子どもっぽいけど、ちんちくりんのあたしには似合ってる。


「この写メ、あたしにも送って」


「ん、わかった」


矢沢君の笑顔を見ていると、なんだか心が温かくなる。


だからね……。


矢沢君にはどんな時でも笑っててほしい。


< 60 / 222 >

この作品をシェア

pagetop