イジワルな彼に今日も狙われているんです。
「えっと……量販営業部の王子って、尾形くんのことだよね?」



さっきの都さんのように少し抑えた声音で、珠綺さんが言う。

それに答えたのはやはり都さんだ。



「そーよぉ~。あんたの元カレである宇野さんの転勤と同時に王子呼びを襲名したかわいそうなイケメン、尾形 総司くん」

「都、いいから……そういう隙あらば私の過去を全力でいじってくる姿勢、ほんといらないから……」

「楽しいから却下」



語尾にハートマークが付きそうな様子で、笑顔全開の都さんが取り付く島もなく言い放った。

言われた側の珠綺さんはといえばひたいを押さえながらため息を吐いていて、今日も軽快なふたりのやり取りに私はつい苦笑する。


同期入社である珠綺さんと都さんは、とっても仲が良い。同じマーケティング部である珠綺さん経由で都さんとも顔見知りになった私は、ありがたいことにたまにこうしてふたりのランチにお邪魔させてもらっていた。

食事を再開した私はフォークにたらこクリームパスタを巻き付けつつ、おずおずと口を開いてみる。



「えっと、尾形さんとは、何度か食事をご一緒させてもらってますけど……付き合うとかそういうのは、お互いまったく考えてないですよ」

「へぇー。あたしとしては、男と距離を置きがちなさなえちゃんがふたりで出かけてるって時点で興味そそられまくりなんだけどな」

「すみません、ご期待に添えるネタじゃなくて」



苦く笑いながらも、これ以上突っ込まれないようキッパリと答える。

だって実際、私たちはそんな雰囲気じゃないもの。あの人の心の中には今も変わらずに特別な存在があることを、私は知っている。

そう考えたとき、なぜかこないだ尾形さんにキスをされたときのことを思い出して。同時にチクリと胸の奥が痛んだのには、気付かないフリをした。
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