できちゃった出産【ベリカフェ版】

先天性母性欠損症――私には母性がないという確信と根拠。

 夫が「幻想である」と断言する“母性”ですが、本当にまぼろしなのでしょうか? 確かに、都合よく作り上げられたものという感じは否めないと思うんです。

ネガティブな言い方ばかりで恐縮ですが、女性に育児の負担を上手いこと押し付けるための誘導作戦というか。或いは、モノを売りたい人たちの思惑によるイメージ戦略というか。しかしながら、母性が社会に都合よく作り上げられた「まやかし」でしかないのかというと、それはちょっと違うかと……。

 私たち家族が暮らす地域では、一人っ子は割と少数派です。子どもが二人・三人いるのはあたりまえ。さらに、少子化なんてどこ吹く風といった調子で四人目・五人目と子宝に恵まれる人たちもいらっしゃる。

 息子一人の面倒を見るだけで精一杯の私にとって、次々と子どもを授かり産み育てていく女性はとてもまぶしい遠い存在です。本当に、別の星の人みたい(笑)。だって、どうしても私には理解できないから……。

 第二子・第三子を産む(作る)ことには、様々な背景があるのでしょう。兄弟姉妹がいたほうがいいという考えはもちろん、家の事情として男児(女児)を産まなければならないとか。或いは、夫婦の希望として「男の子だけでなく女の子も育ててみたい(もちろん逆もあり)」とか。

 そういった事情や考えについては、なんとなく想像できるのです。ただ、私にはどうしてもわからない気持ちがあるのです。それは――。

「もう一度、この手で赤ちゃんを抱いてみたいの」

この気持ちばかりは、私にはどうにも理解することができません……。出産の痛みなんて忘れてしまうという話も聞いたことがありますが、私にはあの体験のしんどさを忘れることはできませんし……。

< 72 / 86 >

この作品をシェア

pagetop