未来へのメロディー
Intro
起立

気をつけ



「ごきげんよう。」

ここはとある都内の女学園。
朝のお友達とのご挨拶でさえごきげんようで始まるようなお嬢様が通っている。

「では、日直から講習の連絡を。」

はい、と隣の席の子が立ち上がる。
出席番号順で毎日仕事をしなければいけない日直。
明日は私の番だと思うと気が重い。

「本日の講習はフルートで6限終了後第三音楽室で行われます。毎度の事ではありますが、講師の先生方を招いての練習となります。礼儀正しく、行儀のよい…」

このクラスは音楽学科を専攻している学生のクラスで、芸術専攻クラスと呼ばれ、13人というかなりの少人数編成だ。
講師の先生方が名の知れた方ばかりだったり、質とレベルの高い授業を受けることができたり、設備がきれいだという理由から倍率が5倍を越える狭き門をくぐってきた実力派の奏者ばかりがいる。
学生の立場からすると、少しは受入数を増やしたらどうかと思う。

「ありがとう。それでは僕の方から。フルート専攻生徒にのみ講習会費についての配布物があります。」

そう言われ隣の子に回されたプリントには0が沢山書かれた経費の引き落としのお知らせだった。
講習会費自体ばかにならないだろうに、学費もプラスされるから正直引き落とし翌日の夕食のメニューが気になるところではあるが、さすがお嬢様。そのような下世話な質問をしている人はいなかった。というよりは、心配していないのだろう。

それに反して私はというと、東京の中でも田舎気味の土地にある二世帯の一戸建て住まい。それこそ夕食を思うと憂鬱な立場なのだが。

「では、これでショートホームルームを終わります。一限目の準備をお願いします。」

やっと終わった。といっても担任の良いところといえば話が長引かないようにプリントを作ってくれるくらいなので、単に私がせっかちなだけだろう。

「はぁ~、日直疲れた!」

隣の関 こなみがあくびをする。
まだ仕事の半分も終わっていないというのに。気が早い。

「お疲れ。だるいよね、日直。」

私が素っ気なく返事をした。

「真梨ちゃんも明日日直でしょ!ちゃんと仕事してよね?」

因みに私の名前は高谷 真梨という。

「いや、小波だって講習連絡の後からテンプレだったでしょ。」

「いいの~!みんなやってるから!」

小波の白い頬がぷっくりと膨らむ。
こういう可愛い子ぶった表情も本当に可愛い子がやると違和感がない。
しかも身長143cmというかなりの小柄。
こんな小さい体のどこにフルートを吹く肺活量があるのだろう。

「はいはい、小波は可愛いねー。」

「ありがとう♪でも真梨ちゃんだってかわいいよ?」

可愛い、って言われ慣れてる感じが癪にさわる。実際に大きい目は垂れがちで童顔。小顔で猫毛はふわふわと巻かれている。初対面の時の第一印象は<子ウサギみたい>で、耳の辺りで結われているツインテールが似合う女子なんて3次元にいたのかと本当に驚いた。

「小波は誰にでも可愛いって言うじゃない。」

いつ止まるのかと心配になる160cmの身長は未だ伸びる兆しを見せている。
つり目で大人っぽいとよく言われた顔に一番合うのはショートカットだと自負しているが。そのせいで可愛いというよりは格好いいと言われることが多くなってしまった。

「たしかに真梨ちゃんは格好いいけど、ちょっと見えるかわいさがたまらないの!あと、こなみはかわいいってちゃんと思ったときにしか言わないよ!嘘つかないもん。」

具体的にどこが可愛いのかというところと、嘘をつかない、というところに突っ込もうとしたら、始業のベルが鳴った。
興奮していたのか立ち上がっていた小波は慌てて席についた。

数学担当の格好いいと呼ばれる先生が扉を開けて入ってくる。小波は少し頬が緩んでいた。正直格好良さはさっぱり解らないが、基本寝れる授業の類いなので私は好きだ。
真梨ちゃん寝ちゃダメ!という声を遠くに聞きながら私は眠りについた。

< 1 / 6 >

この作品をシェア

pagetop