クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


会わなくなって七年も経つのに忘れられない私は、おかしいのかもしれない。

何百回と思い出しているせいで、こんなにも鮮明に頭のなかに残り続けてしまっている。

〝高校〟〝バスケ〟〝野球〟〝彼氏〟
そのひとを思い出すきっかけとなる言葉が、また山のようにあるからいけない。

ピコンピコンと明るい電子音が響き、自動ドアが開く。
そして、コンビニのなかから、さっきひどい言葉を告げた本人が出てきた。

コンビニのレジをしていた女の子が、顔を真っ赤にして告白したっていうのに、『うーん。俺、女の子は可愛くて大好きなんだけど、どうしても本気になれないんだよね。だから、真面目に付き合うとかはできないけど。それでもいいなら』なんて返事をしたスーツの男。

一足先に私はコンビニを出てしまったから、レジの子がなんて返事をしたのかは知らない。

でも、純粋な告白をそんな言葉で返す男が、どんな顔をしているのかは少し興味があった。

さりげなく視線を向けると、整った横顔が目に映った。
茶色がかった髪は、軽くウエーブがかかっていて、斜め上にあるつむじから下ろされている。

前髪は左まゆの上あたりから横に流されていて、顔がよく見える。二重の瞳に、高い鼻……と、そこまで眺めていたところで、視線に気付いたのか、男の人がこちらを振り向く。

目が合った途端、少し垂れ気味の瞳をにこりと細められた。

男としては一般的な身長。ひょろっとした体型。
首から下がるのは社員証っぽい。だとしたら、社員証ぶらさげてあんなひどい返事をしたんだろうか。

そう考えて眺めて……社員証に書かれている会社名を二度見した。

そこに書いてあるのは、大手金融機関の支店名。

明日から私の派遣先になるその支店は、さっき道順を覚えるついでに外から下見したばかりだった。

三階建ての真新しい建物は、ここからでも見えるくらい近いから、ちょっと息抜きに寄ったのかもしれない。

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