― BLUE ―

「なんか、今日はよく喋るね」


だっていままで、ふたりでいてもとくに会話がなくて。

だけどそれでも居心地がいいと感じてた。

いまその理由が少し。ほんの少しわかった気がする。


「ありがとね」

「おあいこ」


そして自分の片膝の上に手を置き、身体を支えながら立ち上がる杉本。

その背中で太陽が輝いてて、眩しくてよく見えない。


「辻も俺がつらいとき、屋上連れてきてくれたじゃん」


ふと笑って、手を差し伸ばしてきた。

そしてあたしはその手を取り立ち上がる。


「あんときさ、なんかこいつスゲーって思ったし」


顔を覗きこんでくる杉本の目をみていると、一瞬吸い込まれそうな気がした。

涙で顔にへばりついている髪の毛を指で払いのけてくれる。

そして微かに笑う杉本。不思議に思い首を傾げる。


「涙が止まる、おまじない」


しっとりと温かい。
柔らかい唇があたしの瞼に触れた。


——トクン


あたしの心臓が一度だけ大きく震える。

思わず杉本を見つめてしまった。


「さてっと。そろそろ教室に戻ろうか」


そして歩き出す。

あたしはその背中を見て“失くしたくない”と思った。

杉本があたしの中で、初めて形あるものへと変化した瞬間かもしれない。


"失くしたくない"


一度だけ大きく震えた心臓は、またいつもどおりに動き出している。


< 77 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop