彼女とボクと出会いの季節
出会いの季節

桜の花が咲き乱れる頃、ボクはその場所で彼と約束した。


“いい子でな”


そう言っていつも通りに優しく頭を撫でてくれた彼は、いつものような楽しげな笑顔ではなかった。

泣き出しそうな顔を必死で歪めて笑う彼。

近づいて行ってしゃがみこんだ膝に前足を乗せたら、また彼の顔がクシャっと歪んだ。

体の小さいボクでは、どんなに体を伸ばしても、彼の頬を伝う涙を拭ってあげられない。

だからお願い、泣かないで。

どうか、いつもみたいに笑って。

彼にボクの言葉は伝わらないけれど、それでも精一杯の気持ちを込めてクンクンと鼻を鳴らし、彼の膝に頭を何度も擦り付ける。


”ごめんな……”


彼の頬を伝った涙が、ボクの鼻に落ちた。


”本当に……ごめんな”


膝に乗せていたボクの前足を掴んで、彼はそっと地面に下ろさせる。
< 1 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop