きたない心をキミにあげる。




駅前での騒ぎについて、お父さんは何も言わなかった。


お母さんにもチクっていないらしい。



ただ一言。


「愛美ちゃん。あの男の子、圭太くんと仲良くするのはやめなさい」


と久しぶりに3人で食卓を囲んだ時に言われた。



「圭太くん、ってあの事故の……?」



お母さんはスプーンを握ったまま、私を見つめている。


私と圭太に接点があるのを知らないからか、驚いているらしい。



「そうだ。もちろん弘樹の死は事故だ。圭太くんは何も悪くない」



花の模様で彩られた食器の上。


私は、オムライスに乗っかった赤をスプーンでぐちゃぐちゃにかきまぜた。



「別に……仲いいってわけじゃないし。ただの知り合い」


「だとしても、お父さんは嫌なんだよ。愛美ちゃんまでいなくなってしまいそうで」



眉毛をハの字にさせ、私を諭すようにお父さんは言う。


黄色い卵に塗り込まれた赤色に視線を落とす。



確かに、お兄ちゃんは圭太と一緒にいる時に事故にあった。



本当は2人とも死ぬはずの事故だった、らしい。


でも、圭太は生き残った。お兄ちゃんがとっさに助けたから。



最初はお兄ちゃんがいなくなった悲しみを受け入れられず、圭太を恨んでしまった。


それはやっぱり間違いだった。



だって、私は今、圭太に助けられている。


彼もまた、私を守ろうとしてくれている。片足をひきずりながらも、懸命に。



お兄ちゃんのいない世界で、まだ、私は息ができている。


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