ネコ耳娘の恩返し
出会い
猫を拾った。
自分が食うための金もないのにどーすんだ、俺。
片手に猫をぶらさげたまま、先月末、敷金礼金ゼロ!のうたい文句につられて入居したばかりの、家賃5万、築27年のボロアパートのドアを開ける。
ふだんから、ちょっとの外出には鍵をかける習慣がない。不用心だとよくいわれるが、わざわざこんな貧民窟をチョイスして空き巣に入る物好きも居まい。よって安心。これからも鍵などかける必要はない。
後ろ手でドアを閉めながら、抱えていた猫を玄関(といえるほどのスペースでもないが)に放すと、にゃおん、と挨拶のようにひと声鳴いて、まるで勝手知ったる我が家のように、軽い足取りで部屋へ入っていった。
靴を脱ごうとすると、廊下で足音がした。
カッ、カッ、と規則正しいヒールの靴音。二つ隣の部屋の、20代後半(おそらく)ハデハデOLだろう。
一応、ここがペット禁止であることに思い至り、改めて鍵をかけた。
さて、と、敷きっぱなしの布団の上にかしこまって鎮座している猫の両足をつかむと、ひっくり返して持ち上げてみる。
お、メスか。
ふにゃー、ふにゃーと情けない声をあげる猫を再び布団に乗せる。
「改めまして、お嬢さん。むさ苦しい部屋で申し訳ありませんが、ごゆっくりおくつろぎください」
猫は、まんまるな目で、不思議そうに俺を見つめている。
「もしいやになったら、いつでも出てっていーんだぜ」
付け加えたその一言に答えるように、猫はまた、にゃあんと機嫌のよい声で鳴いた。
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