眼鏡とハンバーグと指環と制服と
マスコミは連日学校に張り付いてるし、教師たちは対応に大わらわ。
いまは学校でしか会えない月原先生も、疲労の色が濃くて、……一旦、家に帰
ろうかと思った。

でも。

「いまは忙しいから、亜紀ちゃんのとこにいて」。

私の申し出に返ってきたメッセージはそう、素っ気ないものだった。


……いまは忙しい。

わかってる。
学校で忙しそうだもの。

授業もこなして、マスコミ対策や父母に対する説明、精神的に不安定な子も出
てきてる生徒のフォロー。
いつも以上の仕事の量。
それでも、私たちを不安にさせないように、無理に笑ってる。

こんなとき。
妻なら、夫を支えるべきだと思う。
なのになんで、私はなにもできないの?
高校生の自分が、……恨めしい。

私にできることといったら、毎晩胸にかかってる、なつにぃの指環を握りしめ
て、早く落ち着くことを祈ることだけだった。

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