(A) of Hearts

「ところで芦沢さん。わたしがS市って、よくご存知でしたね?」


車に乗り込んだ。
そこは助手席で。


「秘書がどこに住んでいるかは知ってて当然」

「なるほど」

「あ、昨日四條さんに聞いた」

「え!? どっちなんですか?」

「その両方。そのほうが、あとあと動きやすい」

「あ、なるほど」

「ちゃんと話を合わせとけよ」

「任してください!はじめてのお仕事ですもんね」


すごいなあ。
なんていうか大人?

そしてドライブスルーに寄って朝マックを購入したわたしたち。お代は芦沢さんが出してくれた。


「おい」

「はい?」

「お前な」

「——なんでしょう?」

「ひとりでガツガツ食うなよ」

「え?」

「匂いでやられる。腹減って死にそう」


鼻悪いっていったくせに。


「ハッシュちょうだい」


あ!
そっか!


「失礼いたしました! どうぞ!!」

「気が利かないな。ハンドル汚れるから口んなか入れて」

「ええ?」


ハンドルを持つ手。
それから横顔。

長い首に喉仏。


「早くしろよ」


うう。


「——どうぞ」

「サンキュー」


ああもう。
集中、集中。

わたしが、ただ単に男慣れしてないだけ。
それだけなんだから、静まれ心臓のおバカ!!



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