(A) of Hearts
なにをすればいいの。
テレビでもつける?
お茶でも入れようか。
それともコーヒー?
あ、コーヒーはダメ却下。そんなの飲んだら寝れなくなっちゃう。
「ひゃ!!」
突然バスルームの扉が開いたので小さく悲鳴を上げてしまった。慌てて両手で口を押さえる。
どどどどどどうしよう!!寝たふりとか!?
「——なにしてるんだ?」
「いやその、あはは」
なんとわたし、中腰状態のままドレッサーの前で固まってしまっていた。最悪だ。
どうせなら座ったままのほうがよかったかも。
「ヘンな奴」
そういった芦沢さんはグレーのタンクトップ。腰にはホテルのものと思われる真っ白なバスタオルを巻いていた。頭をゴシゴシしながら普通にわたしの前を通り過ぎる。
そして冷蔵庫の中から缶ビールを取り出し、そのままバルコニーへ出て行った。
「——か、風邪ひきますよ!?」
「そう思うなら早く風呂入ってこいよ」
「は、はい…っ!いますぐにっ!」
もしかしたら、わたしがお風呂に入りやすくするために気を遣ってくれたのかもしれない。わかんないけど、なんとなく。
なので急いでバッグ掴んでバスルームへ。シャンプーの香りなのかなんなのか、生々しい香りが篭っていた。湿気で鏡が曇っているのが妙にリアルでドキドキしてしまう。
洗面台の前には歯ブラシがふたつ。
「はあ…」
頭は洗ったほうがいいのかな。
ドライヤーはあるし大丈夫?