テンポラリーラブ物語
「そんな風に思っていてくれてたんだ。なんか恥ずかしい。でもあの時、私もジンジャの笑顔がすごく素敵でドキッてしちゃったんだ。それから私追い掛け回しちゃったね。恥ずかしくもなく”好き好き”とか軽く言っちゃったりもした」

「俺のことを見てくれているって思ったら、男としてなんか嬉しかった。だけどある日、タフクは入ったばかりのデイブに付きまとってた時期があっただろ」

「えっ、イギリスから来た先生のこと? 付きまとってた風に見えてたなんて、ただ英語話したかっただけなんだけど」

「デイブも日本に慣れてなかったからタフクに頼っていた感じだったんだ。俺を放ってさ、二人っきりで話し込んでてさ、その時だよ、初めてヤキモチ妬いたの」

「えっ? 嘘」

「ほ・ん・と。でもさ、自分の気持ちに気がついてもあの時は何もできなかった。ただ、タフクがずっと俺のこと見ててくれるといいなって思うしかできなかった」

「ジンジャ」

「だけど、タフクがアルバイト始めた頃からギクシャクしてしまったよな。氷室が突然降って沸いてくるしさ、なんかタイミング悪かったんだ。俺も不安定な時期だったからどうしようもなかったし、あの時タフクが俺のこと嫌っちまったと思った」

「あの時、私の方が嫌われたって思った」

「だからほんとにあの時俺が悪かったんだって」

「違う。ジンジャは何も悪くないよ。悪いのは私だった。私勘違いしてたこと一杯あったもん」

 なゆみは恥ずかしすぎて、その勘違いもジンジャにうまく説明できない。

 もじもじと下を向いていた。

「もう済んでしまったことだし、どっちが悪いかだなんてどうでもいいよ。ただその時期にタフクが……」

 そこまで言いかけたが、ジンジャはその先を言うのを躊躇った。

 その時期に氷室がなゆみに急接近していることを薄々感じ取っていたために、なゆみが氷室のことをどう思っているのか、聞こうか聞くまいか、暫し逡巡してしまう。

「私が何?」

「いや、なんでもない」

 結局聞かないことにした。

 聞いたところで不安材料になっても嫌だった。

 それよりもジンジャはなゆみを繋ぎとめておきたいと、手を伸ばしてなゆみの肩を抱き寄せた。
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