テンポラリーラブ物語

 その翌日のこと。

 どんなに大きく目を見開いても、腫れぼったい取って付けたようなまぶたが邪魔をして、なゆみの目は半開きになっていた。

 赤い目を通して見た鏡に映った自分の姿。

 それはまさに最悪だった──

 なゆみは暫く絶句して、鏡の中の自分と睨み合っていた。

 この日はすれ違う人にも見られるのが嫌で、うつむき加減に出勤する。

 このまぶたの腫れはすぐに引いてくれるだろうか。

 何度も気にして目をこすれば、益々赤く色をつけたように腫れ上がっていくようだった。
 

 なゆみが店に着いたとき、すでに端のシャッターは半開きになっており明かりが漏れている。

 氷室はいつもより早く来ていた。

 腰を屈めてぬーっとシャッターを潜り、恐る恐る店の中に入って行った。

 幸い氷室は何かをしていて、なゆみに背中を向ける格好になっていた。

 その隙をつき、そそくさと控室に一目散に向かいながら、素早く挨拶を済ませる。

「おはようございます」

「ああ、おはよう」

 氷室が振り返り返った時には、すでになゆみは控室に入ろうとしていて、後姿しか見えなかった。

 そして、この日の朝、氷室もどこかぼやけたようにぼーっとして、控室のドアが閉まるとひっそりと細い溜息を吐いていた。

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