嘘つきには甘い言葉を

第5章 クリスマスイベント

気が付くと街は光の粒で溢れて、バイト先のカフェの２階からは大きなクリスマスツリーが目に入る。ドアが開いて流れ込んできた冷気に顔をしかめると、見慣れた長身が肩を竦めて入って来た。
目の端に映る時計は９と１２を指してる。

「いらっしゃいませ」
「ホットとカフェラテ」
「今日はいいよ。もう帰ろ」
声を潜めた私を無視して1000円札がトレイに置かれる。

こういう時の彼を止められないのは重々承知。少しだけ声を尖らせて「お席にお持ちします。ありがとうございました」とお釣りを手渡す。

「準備しとくから着替えておいでよ」隣から同僚が囁いてくれたから、「ありがと」と返事をしてロッカーに向かう。

最悪の出会いから3ヶ月が過ぎて、世間は恋人たちの季節が巡ってきた。そして私たちは恋人同士かもわからないままに、二人で過ごす時間を重ねている。
コーヒーを飲んだ後、当然のごとく私のマンションに向かう道のり「明日は無理だから」と聞いてもないのに予定が告げられる。

知ってる。１ヶ月くらいかけて隼人さんが準備してきたSIZEのクリスマスイベントだもんね。小さなサークルだったのをここまで有名にしたのは隼人さんで、彼が初めて参加したのがクリスマスだったらか、思い入れがあるみたい。

クラブで一晩中盛り上げるんだって前に言ってた。

「お前もたまには来れば？」誘われるのは初めてで、思わず目を丸くする。
「本気？」
「あぁ、無理にとは言わないけど」

隼人さんは私がサークルに参加するのを嫌う。メンバーの手が早いからって言ってたこともあるけど、彼女かどうかはっきりしない私をメンバーに合わせるのが嫌なのかな、なんて思ったこともある。

まぁ私もどんな顔をして行けばいいのかと思うけど、隼人さんがイベントの準備を楽しそうにしているのを見ていると、一度参加してみたいなぁなんて思っていた。

「行こうかな……」
「じゃあ龍と和香ちゃんも誘えば？　美紀ちゃんも来るだろうし」
「そうだね、都合が合えば。隼人さんは忙しいでしょ？　私の事は気にしなくていいよ。行けたら行く」
「そっか」