嘘つきには甘い言葉を
途中でカップラーメンの昼食を挟んで半日かかり、やっとすべてのチョコレートが完成した。ココアパウダーと粉砂糖で化粧したトリュフはきれいな丸に出来たし、ガトーショコラも外はサクッ、中はしっとりと焼けたみたい。
オーブンレンジ、なかなかやるじゃない。

「ラッピングもいっぱい持ってきたんだよー」
ピンク、水色、レモンイエロー等パステルカラーの包装紙が眩しい。
私は苦笑いして胸の前で手を振り、テレビのスイッチを押した。
「私はいいよ。あげる人いないし」

テレビでは桜の開花予想が始まっていた。暖冬だった今年は少し開花が遅れるらしい。
それでも3月中旬には咲き始めて4月には満開を迎えるんだ。私と同じ名前の、桜。

「ダメだよー。女の子なんだから。あげる人が出来た時の練習しとかなきゃ」
和香に無理やり押し付けられて白い包装紙を選ぶ。
恋愛慣れしていそうなのに意外と純粋なあの人には、白が似合う……。なんて考えて、思わず頭を振った。

「ねぇ、桜ちゃん。」
長い瞬きの後、無邪気な笑顔を真剣な顔に変えて私を見つめた。

和香の手にはピンクの袋で包まれたチョコレート。きっと明日には龍君の手に渡る。
「今、好きな人いるでしょ?」
「……」
適当にごまかそうと思ったけれど、余りにも真っ直ぐな目を逸らせず、嘘もつけずに言葉を飲み込む。

「桜ちゃん、その人にちゃんとぶつかった? 自分の気持ち伝えた? 私は伝えて欲しい。……その人が誰であっても。
偉そうな事言ってごめんね。今日はありがと。荷物また取りに来るから、ラッピングちゃんとしてね。じゃあね」
私の返事を待たずに鞄とチョコを抱えて、大急ぎで和香は部屋を出ていく。

いつもと違う和香の大胆な行動。
約束もしてないのに家に押しかけてくる子じゃないのに、自分の為じゃない。私の為に……来たんだ。
和香は私が龍君の事まだ好きだと思ってるのかもしれない。それでも気持ち伝えて欲しいって、言ってくれたんだ。

桜は散るから美しいって言ったのは誰だっけ。
毎年街をピンク色に染めていく桜。満開を迎えた後は散るばかりで、私はそれが寂しいと思ってた。

だけど私は自分から咲こうともしないから満開にもなれず、散ることも出来ない。
短い春を謳歌した桜は、翌年また美しく咲き誇る。

私はずっと、蕾のままでいいの……?

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