ポイントカードはお持ちですか?


ボーッとコーヒーをドリップしていたらマグカップギリギリになっていた。

うおー、あぶなーい。

このままじゃ砂糖も入れられないから、一口だけ飲んで砂糖の余地を作った。

スプーンを必要以上にクルクル回していると、隣にやってきた良二さん(彼も中村さんなので私同様名前で呼ばれている)が「はあー」とため息をつきながらコーヒーをドリップし始めた。

「良二さんもお疲れみたいですね」

彼は伊月君と同じ用地課の職員だ。
そのため案件によっては良二さんと一緒の仕事もあるので、親しい同僚の一人である。

「厄介な人に当たっちゃってね。なんだか被害妄想がひどいんだ。庭の一部の立木だけ買い取りたいって言ってるのに、国家ぐるみで家を追い出されるって大騒ぎされてる」

「それは、強烈ですね」

「忍耐だよ。ひたすら忍耐。人の所有権侵害するんだから仕方ないんだけどさ」

「そこまでして道路って作る必要あるんですかねー」

「何十年も前から計画されてることだから、もう誰も止められないんだろうね。それで潤ってる業界があるのも事実だし」

おそらく全然違う内容ながら、私たちは仲良くため息をついた。

「働けど働けどなお我が仕事楽にならざり。じっと手を見る」

私も横から良二さんの手を見る。

「━━━━━幸せそうにプクプクしてますね」

「そうなの。俺、苦労が外見に現れなくってさ」

「あ、良二さんチョコレート食べます?少しはストレス解消になりますよ」

ポケットから個包装されたチョコレートを3つ取り出して渡すと、良二さんは感激のあまりプクプクした手で私の手を握った。

「ありがとうー!咲里亜さんだけだよ、労ってくれるの!」

「いやいや、みんなお互い様ですって。・・・手は放してくださいね」

「えへへ。セクハラ?」

「今回は異性との貴重なスキンシップだと受け取っておきます」

「重ね重ねありがとう。咲里亜さんにはいつも助けられてるね」

チョコレートくらいで大袈裟だけど、でもふとした人のやさしさに触れて心が安らぐことはある。


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