ポイントカードはお持ちですか?
スカートのファスナーを上げながらなんとか気持ちを落ち着けようと努力した。
だけどできなかった。
だから髪の毛を直すことに集中するフリで、顔を見ないまま言葉を投げつけた。
「いいよ、気にしないで。大人だからこういうことだってあるでしょ?忘れて。私もこういうの初めてってわけじゃないし」
バタバタとジャケットとコートを着て、バッグを持つ。
急がないと、急がないと。
寝室を出るとき、頑張って一瞬だけ振り返って、口角をギュッと上げただけの笑顔を作る。
「ごめんね。お邪魔しました。じゃあ、また職場で」
急がないと、急がないと。
ブーツのファスナーがもどかしい。
鍵を開ける手間すら待てずに、涙がこぼれた。
ドアを開けて足音だけは平静さを保って階段を降りる。
もうこぼれてしまっているけど、まだまだ拭いたらダメ。
伊月君の部屋の窓から見えるから。
ないとは思うけど、うっかり見られたら大変だから。
ボタボタ落ちる涙を流しっぱなしにして、自然さを装った急ぎ足でアパートの駐車場を抜けた。
お酒のせいだけではない身体のダルさでおかしな歩き方になっている。
それすら当たり前のように振る舞って、数軒民家を過ぎ、スーパーの角を曲がってようやく足を止める。