ポイントカードはお持ちですか?


「おはようございます」

朝の清掃を終えた風見さんがバケツを片手に現れた。

シミやシワの問題じゃなくて、内側から違うんだなっていうピカピカの笑顔。

「おはよう、風見さん。今日は一段とかわいいわね!」

含みを持たせた奈美さんの言葉も、やわらかな輝きではじき返す。

「そんなことありません。寝坊しちゃってちょっと手抜きメイクなんです」

あはは~。
手を抜かないメイクの仕方がわからないよ。

「風見さん、おはよう」

「咲里亜さん、具合悪そうですね。あ、課にある鎮痛剤持ってきましょうか?」

なんっていい子なんだろう!
自分のしたことを振り返って本気で落ち込む。

いや、違うな。
〈したこと〉は後悔してないんだ。
それでも後悔しない自分の汚さに落ち込む。

最悪、最悪。
「それでも後悔してない」って最悪。
一時でも愛されてるって錯覚して喜ぶなんて、身体の重ささえ愛おしいなんて、本当に最悪。


やっぱり職場で恋なんてするものじゃないな。

失恋したのに平気なフリしてさ。
「大人ですから仕事は仕事としてちゃんとしますよ」って、なんでもないフリしてさ。
本当は立ってるのもやっとなのに。

気を抜けば涙が滲みそうだから、無理矢理仕事のことに頭を切り替えようとする。

「ありがとう。でも大丈夫。ちょっと・・・二日酔いなだけだから」

「いつでも声掛けてくださいね」と言って仕事に戻る風見さんの背中に、心の中でもう一度謝った。



伊月君の席は振り返らなければ見えない。
それだけは本当によかったと思う。





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