アイドルの素顔に夢を見るのは間違っている
最悪すぎる遺書



『貴女の名前はね……心優しい子になりますようにって意味で、心優(みゆう)ってつけたのよ。』


たまに母のこんな言葉を思い出す。
他の記憶は薄れてしまっているけれど、これだけは何故だか忘れられない。



ほら……今日は何年ぶりなのかそんな事を言う母の夢を見た。


……母は幼い頃に私を残して出て行った。
祖母が言うには、シングルマザーで私を育てるのに嫌気がさし男と逃げたらしい。


母を恋しいと思った事は何度もあったけれど、徐々に記憶が薄れていくとどうでも良くなっていった。


おばあちゃんは厳しかったけれど愛情は人一倍だったし、友達にも恵まれて毎日楽しかったし。




おばあちゃんが死んだときはさすがに辛かったけれど、残してくれたお金で一人暮らしを初めていまはフリーターで
生計を立ててる。


将来公務員を目指している彼氏もいたりして。


最近は忙しい生活を送っていて思い出してなかった母が、今日夢に出てきたのが、まさに虫の知らせというやつだったんだろう。


その日の夕方知らない番号から電話がかかってきたのだ



「…はい。もしもし?」


『葛西心優さんですか?』



男性の声。
聞き覚えが全くない声だ。




『…あの?』

「あ、はい!葛西心優です!」

『ああ…よかった。連絡が取れて………由乃(よしの)さんの娘で間違いないですよね』



由乃……よくおばあちゃんが寂しそうにつぶやいていた名前。顔こそうまく思い出せないけれど名前だけは分かっている。


なんだか嫌な予感がした。


「……そうですが……」


『……由乃さん……病気で亡くなり、私が喪主を務める事になりました。お葬式きてくれませんか?』



ほら……当たった。


心優しい子になるように。そんな事を夢にまででてきて思い出させたのは、母が枕元に立ったからだろうか。



なんて勝手な人
おばあちゃんの葬式に顔すら見せなかったのに。
あんたは優しいから葬式に来いってこと?



「……でも私は疎遠になってて……顔もよく覚えてないというか」

『貴女への遺書を預かっているものがいるようなのです。来ていただければ幸いです。』



最低な人だった。間違いなく。
この喪主を務める人は誰だろう……
もしかして出て行った後に作った息子か何かだろうか。


いまさら遺書なんて書いてどういうつもりなんだか。


「……わかりました……いきます。」



それでもこの世に生んでくれた親。
名前をつけてくれた親
なんてそんなことは思わなかった。
ただ最後に顔だけ見て、ザマアミロと溜まった鬱憤を晴らしてやろうとそう返事をした。




思えばこれが、私の人生を大きく変える出来事だったのだ。
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