今ならやり直せる
乾いた日常

「行ってらっしゃい」

「……」

返事をしなくなったのは、いつからだろう。
それに慣れてしまったのは、いつからだろう。

バタンと玄関の扉を閉まると、大きく溜息をつく。


結婚して五年。夫は二十歳年上の四十八歳。
結婚が早すぎたのかも知れない。なんせ二十三歳で結婚してしまったのだ。

同級生の友人達は二十八歳という若さを存分に楽しんでいて、恋愛、仕事、旅行と充実した毎日を送っている。

それらのSNSを羨ましげに眺めるのが華(はな)の日課となっている。


掃除機を掛け、洗濯をし、早い内に夕食の買い出しも済ませる。すると、やることがなくなってしまう。
子供のいない専業主婦って、何をして過ごして居るのだろうと本気で考える。たまに会う友人にもよく言われる。
「三食昼寝つきだね」と。

夫の収入は充分あり働きに出る必要もないが、お金のために働くのではなく何か充実感が欲しかった。

パソコンを開き、仕事情報を見ていると「派遣社員」という言葉が目に付く。
流石に正社員は勤まらないし、パートでは物足りない。
パートよりも時給が良いし、合わないと思えば契約を更新しなければよいので、気が楽かも。それに、仕事の種類もたくさんあり、自分で探さなくても条件に合った所を派遣会社が紹介してくれるのも魅力だ。

さっそく、書いてある電話番号に連絡し、面接の日を決めた。

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