運命なんてありえない(完結)
近付く距離

〜撮影〜



2週間程が経ち、4月の上旬…桜が満開の今日、高梨社長から依頼された撮影のため高梨グループ本社へ来ている。


お昼過ぎまで本社内のあちこちで撮影をして、それからラグビー場へ移動するとのこと…

今話題のラグビー部を広告にも起用しようと意見があったので、撮っておこうとなったとか



彼が…酒井大也くんが言っていた「また会う」ってこのことかと納得。



「杏さーん!モデルさん準備できました〜」




今いる高梨グループ本社の建物はこの地域でもよく目立つ程に大きく、地元の人なら誰もが知っている。

1階のロビーには受付だけでなく、高級ホテルのようなラウンジもあり、簡単な仕事の来客対応はもちろん、一般のお客さんも利用している。



そのラウンジの窓側の席で撮影の準備をしていた会社の後輩の田辺佳香(たなべよしか)がこちらに手を振りながら呼びかける。


佳香は私の一つ下で、以前いた店舗で新入社員の頃から手塩をかけて教育した可愛い後輩だ。センスも良く、飲み込みも早い数少ない信頼できる仲間。


今日は全店統一定休日のため、アシスタントに連れて来た。




「佳香、こっち」
とラウンジの受付の近くの席から佳香に手招きをすると、嬉しそうな表情で駆け寄って来た。

こういう犬みたいなところが可愛いよなぁ…本物の犬は苦手だけど…



「高梨様、ご紹介致します、こちら私の後輩の田辺佳香です。今日は1日アシスタントをしますが、彼女のカメラの腕も私が保証します。」


よろしくお願い致しますと丁寧な所作で私の向かい側のソファに座る高梨様に頭を下げる佳香。私の教育の賜物だと心のなかでニヤける。




「高梨です。日下さんが保証してくれるなら安心して任せられるね。じゃ今日の撮影は、広報の青山が付き添うのでよろしく頼むね」


高梨様に紹介され、ぺこりと頭を下げる青山さんは年齢は私と同じくらいといったところだと思うが、コテコテに施された化粧が年齢を不詳にさせている。




「では1階から始めましょうか」


頭を上げて妖艶に微笑む青山さんの言葉に「お願いします」と頷き、窓側の撮影場所へ移動する。

事前に高梨社長から彼女にはやや難ありと聞いていたが、今日出会ってから撮影の打合せをしていた限りではまだそこまで悪い印象ではない…化粧を除いて…


左肩から襷掛けにカメラをかけ、明るさやシャッタースピードなどを微調整していく。
佳香にレフ板を持たせているから1人で撮ることを思えば楽だ。


メインのモデルさんはこの本社で働く男女1人ずつで、誰もが頷く美男美女だ。そして、オフィス内ではそこで働く人を自由に使っていいとの許可も出ている。
人と施設だけでなく、その場の雰囲気も取り込めるような写真を撮りたい。時間はかなり限られているが、期待に応えたい。


自然な動作や表情になるように、モデルの2人には話したり、ドリンクを自由に飲んで貰いながらシャッターを切っていく。

「はいオッケーです」


私の声と共に、緊張していたのかモデルの2人はふぅと大きく息を吐いた。
こんな美男美女でも緊張するんだな…。


佳香に青山さんと次の階での打ち合わせを任せ、1階のラウンジや受付、入口の撮影をしていく。止まっているものを撮るのはスタジオでの撮影よりも楽だ。元々何回か来たことがあるので、撮っておきたいところは頭の中でリストアップ済みだ。


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