ふたりで

次の日の午前中、母たちとは別行動で、こーちゃんは、私を城跡公園に連れて行ってくれた。

そこには、小さな美術館と、薔薇園がある。

ふたりで、絵画や彫刻、薔薇の薫りを楽しんだ。私は、割と絵が好きで、一つ一つの作品をじっく観たい方だが、こーちゃんは、

「俺は描けないけど、観るのは好きだよ。真愛も好きなら、連れてきて正解だったな。」
と言っていた。

「私ね、凡人だからピカソみたいな絵は理解出来ないけど、ゴッホやセザンヌは好き。特にユトリロが大好き。彼の描くパリの街はとても素敵なの。いつか本物の絵をこの目で観てみたいなあ。」

「よし、約束だ! いつか、いや、近い将来、絶対にふたりで観に行こう。」
と、こーちゃんは力強く言ってくれた。

共通の趣味がわかり、また、ふたりで楽しめるのが、何とも言えず嬉しかった。まだ白黒だったふたりのこれからの道が、彩られた気がした。


昼過ぎの電車で、母と私は、F市を後にした。こーちゃんは、もう一晩泊まって、親孝行の真似事をするようだ。

私も、後半の夏期講習が既に始まっているから、明日からまた忙しくなる。

こーちゃんとは、9月の試験休みに、何処かへ行く予定だ。
それを楽しみにがんばろう。

母は、気になっていたおばさんと、沢山話せて満足そうだ。これからは、携帯で連絡を取り合えるから、心配ないね。
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