夕星の下、僕らは嘘をつく
宅配便で送っていた荷物の箱を開ける。
家にいたときはほとんど部屋着だったけれど、今日からはちゃんと着替えようと決めていた。

シンプルなローゲージのセーターとデニムを取り出す。
莉亜たちに合わせた服を着なくていいというのは、とても心地よかった。

そういえば昨日会った一ノ瀬くんは、同級生にありがちな無駄なデコレーションのない、シンプルな出で立ちだったっけ。
そう思い出して苦笑する。思い出したってなにもないのに。
 

一階に降りると、台所に叔母の気配があった。
古い、よく言えば情緒あるこの家にあるのは、キッチンではなく台所、バスルームではなく風呂だった。
靴下を履いていてもひんやりした廊下は軋んだ音をたてる。


「おはよう。手伝おうか」
台所を覗くと、ガスコンロ前に立つ叔母の背中が見えた。

「じゃあご飯よそってくれる?」
それに返事をして、炊飯器の前に立つ。

叔母は二人ぶんのご飯茶碗を用意してくれていた。
ひとつは新品に見える。
昨夜は鍋だったから、ご飯茶碗は見ていなかった。


「わざわざ、買ったの?」
白い釉薬に淡い色でストライプが描かれた茶碗を持って尋ねると、叔母が振り返った。

「雑貨屋に行ったら、かわいいの見つけたから。晴は気に入らなかった?」
叔母の声に紫色が見えた。
でもそれは最後の質問の色なのだろう。

「ううん、ありがとう。かわいい」
よかった、と叔母は微笑んだ。その声は緑色。
 

二人ぶんのご飯をよそって、味噌汁とだし巻き、鮭、お漬け物を並べて、小さなテーブルに向かい合って座った。

昨日の晩ご飯もそうだったけれど、誰かと一緒に食べるご飯は、本当に、いつもより何倍もおいしく感じるもので、びっくりする。
叔母が料理上手っていうのと、普段がお総菜多めというのを差し引いても。
いや、お総菜もとてもおいしいけれど。
 

食事中の会話は他愛のないことがほとんどだった。
やれこの間読んだ本がおもしろかっただの、お客さんとこんな話で盛り上がっただの。
 

それでも、やっぱり叔母も人間だから、時折声に不安の色が見えることもある。
私になにかを質問するときは、おおよそ不安の紫色をしている。

ただし質問といっても、会話の延長程度のもので、私がどうして引きこもっているだとか、両親と話をしないだとかは聞いてこない。
たぶん、地雷を怖がってるんだろうな、と思ってる。

たとえば「どんな小説が好き?」といった質問でも、それによって引き起こされるなにかが私の中にあるんじゃないかって、不安になっている。

大丈夫、私はそんなに柔じゃない。
たとえ別れた彼氏を思い出すようなフレーズがあったって、それで心を閉ざすことはない。
 

いやなのは、嘘をつかれること、なのだから。
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