夕星の下、僕らは嘘をつく

一晩考えても、答えは出なかった。
というか考えているだけ偉い、私。
 

だって手伝う義理なんてどこにもない。
せいぜい小学生の頃の知り合いだというだけで、今現在一ノ瀬くんとの関係はなにもないし、ましてや中身であるらしい人見浪とはまだ二日のつきあいだ。
つきあいっていっても、立ち止まってすこし話した程度。
 

それでも手伝わない、とはっきりできない理由はどこにあるのだろう。
 

私は、もう他人と関わりたくないと考えている。
今もそうだけれど、こんな変な能力がある限り、将来的にも無理だろうと。

それに接点を持たなければ、もう裏切られることはない。
 

だけど彼の手伝いをするということは、関わりを持つということ。
意志に反している。だからいやだ、ってすぐに断れるものだと思っていた。

なのに私の心はそれをしない。
幽霊とか信じてないんで、ってさくっと割り切ればいいのに。
 

なんでこんなに考えなきゃいけないのだろう。
莉亜や友哉のときみたいに、早々に諦めないのだろう。
 

考えてもわからない。わからないからもどかしい。
裏切られたくないなら、やらないほうがいい。

そんな考えがさみしいことはわかっている。
誰とも関わらないで生きていくなんて、とてもむなしいって頭では理解している。
 

彼に、裏切られる、なんてことはありえるんだろうか。
 

そこまで考えて、昨日の彼の顔を思い出した。
どうして私なんかに期待したんだろう。

胸がぎゅうっと締めつけられるようで、枕を抱えて転がった。
エアコンをつけているとはいえ、畳が冷たくて頬が冷える。
 

見た目が一ノ瀬くんとはいえ、中身は別人なんだ。

幽霊を信じるとか信じないとかは別としても、そこだけは受け入れられるような気がしていた。


「晴、お客さんよ」
ごろごろと転がっていると、叔母の声が聞こえてくる。
客とはめずらしいもなにも、いったい誰がここを訪ねてくるのだろう。
莉亜たちにだって、住所までは教えていないのに。
 

もう一度叔母に名を呼ばれたので、億劫さを感じながらも部屋を出た。
まさか両親だったりして、と思うとさらに足が重くなる。
 

階段を下りると叔母が待っていた。
誰、と問う前にお店のほうで待ってもらってるから、と言われた。
店、と躊躇うと他には誰もいないと追加情報をもらう。
 

これは行かねばならないのだろう。
叔母は飲み物用意するから先に行って、と言う。
まあそれに、誰が来たんだという興味はあった。
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