ADULTY CHILD
記憶の断片
「ママ〜、おかえりなさいっ!」

買い物を済ませて玄関のドアを開けると、ぎんが嬉しそうにトタトタと出迎えてくれた。

「ただいま、良い子にしてた?」

「うん、ぎん良い子にしてたよ!
これ持ってってあげる〜」

桜から買い物袋を受け取ったぎんが、軽々とそれをキッチンまで運んでくれる。
その様子から、記憶を失う前のぎんの姿が垣間見えた様な気がした。
友人と思われる雅也のイメージからぎんの姿を何となく想像していただけに、それがとても意外な行動に思えた。

「ねぇねぇママ〜、まだぁ?」

ついでに購入してきた料理本を片手に悪戦苦闘していると、ぎんが桜の周りをウロチョロとしながら待ち切れない風に口を尖らせた。

「も、もうちょっと待っててね?
えっと…挽き肉に卵をを入れて…
あぁっ、殻が入ったっ!」

コンロではフライパンの上で不揃いな玉ねぎの微塵切りが跳ねている。

跳ねて…?

「あっ、火強過ぎ⁉︎
焦げてるし〜!」

「ねぇママ〜、今何か鳴ったよ?」

クイクイと袖を引っ張るぎんに構っている暇は無く、桜は煙を上げ始めたフライパンにてんやわんやでそれ所ではない。

「と、とにかく火を止めなくちゃ!」

「…」

換気扇を回してホッと胸を撫で下ろした桜は、先程まで纏わり付いていた筈のぎんの姿が見えない事に気付いて辺りに視線を彷徨わせた。

「あれ…ぎん?
ぎん〜、どこ〜?」

「うわっ、銀、押すなって!」

トイレにでも行っているのだろうかと廊下に向かった時、ドアから急に見知らぬ男が現れた。

「きゃあっ、だ、誰っ⁉︎」

「あ、あ〜俺怪しいもんじゃないっす!
おい銀っ、お前説明しろよっ!」

その男の後ろからヒョコッと顔を出したぎんが、嬉しそうにその男の手を掴んで振り回す。

「ママ〜、しゅん兄ちゃんが遊びに来てくれたよっ!
見て、オモチャだって〜!」

「え、え?
ぎん、知ってる人なの⁉︎」

「ぎんオモチャで遊ぶ〜!」

桜の問い掛けはもう遊び始めたぎんには届かない様で、その様子に苦笑した男が向き直ると深々と頭を下げた。
< 15 / 25 >

この作品をシェア

pagetop