ADULTY CHILD
寝室に戻ってぎんが規則正しく寝息を立てているのを確認して、起こさない様にそっとベッドに潜り込む。
それからどれ位の時間が流れただろうか、うとうとし始めた桜は急に眠りの世界から呼び戻された。

「ううっ…」

眠い目を擦りながらその声の主に目をやると、苦しそうに唸っているぎんの姿がそこにあった。

「ぎん…?」

「うぅ…っく…」

ベッドサイドに置かれたスタンドライトを点けると、眉間に皺を寄せているぎんの額に何かが光る。

「う…うぅっ…」

「凄い汗…まさかまた熱…⁉︎」

呻き声を漏らすばかりのぎんにそっと触れるが、桜の手には温かいぬくもりしか伝わって来ない。
いや、寧ろ平均体温よりも幾分低い様な気さえする。

「ぎん…ぎん?」

悪夢にうなされているのか、桜の声はぎんには聞こえていないらしく、薄く開けられた瞳はどこか一点を睨みつけていた。

「うぅ…だ…
い…や、だ…っ」

「え…何⁉︎」

「い…だっ…」

その声は、桜が今朝から聞いてきた子供特有の甘えたものではなく、ぎんの外見年齢そのものの低い声だった。
訳も分からず狼狽えるばかりの桜の頭にふと、先程雅也が電話で口にしていた言葉がよぎる。

『俺、あいつが今の状態になったのには頭を打っただけじゃねぇ何か、別の要因があると思ってんだよ』

一体ぎんの身に何が起きたのか、何が彼の子供化を促したのか。
何の知識も持ち合わせていない自分にはそれを推し量る事は出来ないけれど、きっと専門の医師なら解決策を見出してくれる。

「っ……すぅ…すぅ…」

再び安らかな寝息を立て始めたぎんに安堵して、桜は起こした身体を再びベッドに沈ませた。
昼間の幼いぎんとの生活はきっとすぐに終わる。
それまでの辛抱だ。
自分の中に目覚めた母性が色濃くなる前に、情が移る前に早く…ぎんが元の彼に戻ります様に。
再びひたひたと静かに訪れる睡魔に身を任せながら、桜はそう祈った。
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