君を唄う
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♪ ねぇ 忘れてしまわないで あなたが描く未来にわたしはいないとしても

2時間目の授業で音楽室へ移動しているとき。

「あっ、それMIYUの新曲??昨日テレビでやってたよねー」

親友の安藤ちかが言う。

「そうそう、めっちゃ良い曲だと思わない?」

私、中山明音はMIYUが好き。

「明音、ほんとMIYU好きだよね〜」

「だってあの歌声とか歌詞とか最高じゃん?顔もかわいいしさ」

「あ〜わかる、ちかもあんな顔になりたい」

ちかがそんなことを言うからあたしは思わず笑う。だって、ちか充分かわいいんだもん。

MIYUっていうのは、“Lost Hearts"という4人組バンドのボーカルで、いまや中高生はもちろん、大人にも大人気なのだ。恋愛ソングが主で、共感できる歌詞が人気の理由みたい。

あたしもそのファンのひとり。
去年の中学1年生のときに、ドラマの主題歌をMIYUが歌っていたのをきっかけに、好きになった。
LostHeartsのつくる歌は最高だ。MIYUの歌声はもちろん、ギターやベース、ドラムもかっこいい。ちなみに、作詞をしているのはMIYUで、ギターの晶が作曲を担当しているらしい。

LostHeartsに出会ってから、あたしは歌うことも好きになった。1人のときとか、家の中ではよく歌ってる。将来の夢ではないんだけど、いつか歌手になってみんなを感動させられる歌を歌いたいなぁ、と思ったりする。まぁ、無理だろうけどね。


音楽室に入ると、先生も生徒もまだ誰も来ていなかった。

横を見ると、ちかがなにやらもぞもぞしていた。

「明音、ちょっとトイレ行ってくるね」

ああそれでもぞもぞしてたのね。

「はいはいー」

ちかは駆け足で音楽室を出ていった。


……しーーん。


誰も来ない。

時計を見るとまだ授業が始まるまで10分ほどあった。




誰もいない音楽室。


それは私の好奇心をくすぐった。








・・・歌いたい











そう思うと、自然に声がでた。






♪ ねえ
あなたが恋に落ちていくとき
私はあなたに恋をしていたの

あなたが切ない瞳であの子を見つめるとき
私はあなたを想っていたの

振り向いてくれるはずがないのに
心の片隅で期待してた

この恋はきっと叶わない

叶わないのに

想いは止まらなくて



この恋がいつか終わりますように








歌い終わった瞬間に


ぞわっ……と

鳥肌が立った。

思い切り歌うのって、最高に気持ちいい・・・!

やっぱり私は歌うことが大好きだった。



なんとも言えない高揚感に満たされていたそのとき



「へぇ」


後ろから



「歌うまいんだな」



声が



「なぁ、聞いてる?」



ふはっと笑うその声は・・・




恐る恐る振り向くと、そこには同じクラスの原田響がいた。


嘘でしょ・・・最悪すぎて泣ける


「ねえ、なんでずっと黙ってんの?わざとシカトしてんの?」


それは違う、ショックすぎて声が出なくて・・・。

「ちち違うよ、原田くんに聞かれてたのにびっくりしちゃって・・・」

な、なに動揺してんだ私!!

私の慌てぶりに原田くんはまたふはっと笑う。
原田くんって、こうやって笑うんだ。



「あのさ、バンド組まない?」

「・・・ん?」

「だから、バンドやろ」

「・・・は?」

今、原田くん、なんて

「あぁもうめんどくせぇな」

原田くんがじれったそうに言う。

「俺とバンド組め、決定な」

「はぁ!?」

私は頭が混乱してわけがわからなくなっていた。

「ちょっと待って!」

「ん?なに?」

原田くんのとぼけたような顔にちょっとむかついた。

「私、バンド組むなんて言ってないんだけど!しかもなんでいきなり・・・」

そう言いかけたところで、

「きゃーっ!!明音すごい!!」

まさかのちかが入ってきた。

「え、なんで!?今の全部聞いてたの!?」

「うん、ごめんね」

ちかはニコニコしながらてへっと笑う。
いやいや笑ってる場合じゃない

「でもちか、良いと思うよ!バンド!」

「おお!安藤もそう思うよな!!」

え、ちょ、まじで。

「うんうん!明音、歌うまいもん!!」

「俺もそう思ったんだよな〜」

原田くんがニヤッと笑う。

「安藤は、俺らがバンド組むの賛成だろ?」

ちかは即答する。

「もちろん!」

またまた原田くんがニヤッと笑う。
それがさらにむかつく。

「決定、だな」

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